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生活の中のユニバーサルデザイン

第9回 排泄の選択肢を増やす押入れトイレ

トイレでの排泄行為は、人間の尊厳にもっともかかわる問題です。そのため身体が弱り、トイレに行きづらくなったら短絡的にポータブルトイレやオムツを使うことを考えるのではなく、その方にあった排泄方法を考えてあげたいものです。

例えば、トイレが遠くて歩いていけなくなったら、一番いいのはトイレを近くに設置することですが、既存の住宅には場所がない。そうなると、ポータブルトイレを使用することになる訳ですが、やはり寝室での排泄には抵抗感があるという方は多いのではないでしょうか?私の知っているTさんもそういった悩みをお持ちでした。しかし、訪問していた看護士さんの発想でこの問題を見事に解決されました。

1. 生きる気力をなくした寝たきりから、ADL(日常生活動作)アップ

介護保険がスタートする前の話です。Tさんは、長く独り暮らしを続けており、家事身辺作業全て自分で行っていました。ところがある時期から、特別病気という訳ではないのですが体力が衰え、歩行もおぼつかずトイレにいくのも不安なってきたので、在宅介護サービスを頼むことになりました。
在宅介護の担当者は、Tさんの身体が弱っているので「歩けない状態だ。」と判断し、導入されたサービスは、ベッド、ポータブルトイレの設置、夜間用の紙おむつそしてホームヘルパー派遣でした。Tさんは一日中、ベッドの上でテレビをみて過ごす生活となりました。

それから3ヵ月後、私たちがTさんを訪ねてみると、目が虚ろで生気のないTさんの姿がベッドの上にありました。
Tさんに「ちょっと歩いてみませんか?」と声をかけても、嫌だというように首を横に振るだけです。同行した看護士は「歩けるのに、歩きたくないから、歩けない」と煙にまくような表現をします。これは、本来歩くことの出来る身体状態であるのに、周りが気をつかい歩かせない、または本人が面倒あるいは辛いので歩かないことから歩けなくなったものでした。

イラスト Tさん宅見取り図

この状態をなんとか改善しようと話し合っていたとき、看護士が以前、本人が言っていた「もっと近くにトイレがあれば、自分で用がたせるのに」という言葉を思い出しました。そこで、トイレを寝室の近くに持ってきて、トイレに歩いて行かせようと考えたのですが、場所がありません。そこで思いついたのが押入れだったのです。
幸いTさんが介護用ベッドを使うことになっていたため、当初押入れに入っていた布団がなく、他のものも片付ければスペースが空き、そこにトイレを増設することができました。
この結果Tさんはどのように変化したかというと、トイレへは自分で歩いて向かい、表情も明るくなり、ADLの向上も目を見張るものでした。

ものを語る 工業デザイナー さかもとてつじさん

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